酷暑が嘘だったように、涼しい季節になってまいりました。
夏の暑さに耐えるべくぐっと構えていた心身が、ゆるむような心地になります。
せっかくだからこの気持ちよさを長く楽しみたいなと、宵っ張りにもなりがち。
そんな秋の夜長を過ごすのにうってつけなのが「映画鑑賞」です。
おうちで好きなものを飲んだり食べたりしながらのんびりと。最高だな。
今回は、私がこれまで観た中で、食事や料理の場面が印象的な「おいしい映画」をご紹介しようと思います。
【邦画編】
■リトルフォレスト
一度は都会に出た女の子が、複雑な思いを抱えて帰った故郷で自給自足の生活を始めるおはなし。
田畑を耕して収穫したものや、野山で採った食材で作るあれこれが、なんともつややかで魅力的。パンやジャム、ごはん、汁物など、作ることを楽しみ、しっかり食べる様子に清々しささえ覚えます。
場所を移したからといって解決するわけでもない思いや、新たに起こるできごとでこじらせる気持ちなどを描きながらも、主人公の澄んだ視線が作品内に常に感じられ、静けさとおだやかさに包まれる居心地のよい映画。
「夏・秋」「冬・春」と、それぞれ2時間くらいの2本で構成。
一旦観終わった後には、BGM的に流して、美しい映像と音楽を楽しむのもありです。
■南極料理人
南極観測隊の料理人として、極寒の基地にやってきた主人公。
過酷な環境で家族とも離れ離れに暮らす8人の隊員たちには、それぞれやる気があったりなかったり、抱える思いもあって、それらがぶつかり合ったりすれちがったり。
限られた空間で葛藤する隊員たちを思い、その局面に合わせて料理をふるまう主人公の様子と、隊員の食べっぷりが印象的でした。
また、話が進むにつれてこなれていく個々のキャラクターも楽しく、だんだんと友人を見守るくらいの気持ちにもなってきます。
「おいしいものを食べると元気が出るでしょ?」という主人公のセリフ、使い古された言葉だけど、この世の真理のひとつだと思う。
■食堂かたつむり
こちらは、まず原作小説を読みました。
それも、久しぶりに会った後輩に「先輩がこんなお店をやってくれたらいいと思って」とプレゼントされたんですよね。愛。泣ける。
心に傷を負って山あいの故郷に帰った主人公が、一日一組だけのメニューのない食堂を開くのだけれど、そこでふるまわれる、客の悩みや心境によりそう料理がとても魅力的。
料理名だけでわくわくして、すぐに映画も観たような記憶があります。
終盤、情緒的な食いしん坊にはなかなか厳しい展開も待ち受けているのですが、私はそれよりも「料理の描写にわくわくした」という体験の方が大きく残っている映画です。
【洋画編】
■バベットの晩餐会
実は、初見では何度も途中で観るのをやめようとしました。物語前半の印象は、陰鬱。寂寞。閉塞感。
19世紀後半のデンマークの漁村を舞台に、清貧を絵にかいたような姉妹が、同様に暮らす村人とつつましく閉鎖的に送る日常が描かれます。
これが、観ていてしんどくてねぇ。
ところが、ここにフランス人のメイドが来たことで大きく物語が展開していきます。
このメイドが、かつてパリの名シェフだったのですが、彼女が豪華ディナー作ることになってからのシーン。
食材を用意をする様子、そしてそれを批判的に見ていた村人たちが、料理を口にするつれて表情を高揚させていく描写が、もう素晴らしくて。
まるで前半がモノクロで、メイド登場以降には色がついたのではないか?という記憶になってしまいそうなくらい。
そのディナー場面を堪能すべく、すぐにもう一度鑑賞したという、自分としてはめずらしい思い出のある映画です。
■めぐり逢わせのお弁当
インドでは、出社した夫のオフィスに妻が作った弁当が届けられる集配システムがあるのだそうで、まずはその様子が興味深い。
そして、その中のお弁当が誤配送されてしまうことで、つながるはずのない2人がつながっていくという物語。
このお弁当が、まーおいしそう。
インドのお弁当は、ライスとカレー、おかずなど、数段になっていて、オフィスでこれが食べられるのはなんと幸せなことか…と、ひたすらに「おいしそう」目線で鑑賞しました。
お話は大人の恋愛ドラマに発展していって、質を保ったままラストを迎えるのだけど、私の頭の中の半分くらいは「明日はインド料理食べる」で占められます。
■フィッシャーキング
この映画を「グルメ映画」ととらえている人は、ほぼいないと思います。
私もその枠でとらえてはいないのですが、食べものが登場する忘れられないシーンがあり、そこをおすすめさせていただきたいのです。
人気ラジオDJだった主人公は、その過激な発言が原因で落ちぶれてしまう。失意の中、ホームレスの男と出会い、贖罪の道を探し始めるというストーリーの始まり。
このホームレスも心に大きな傷を負っていて、精神的な異常を抱えているのだけど、その彼が恋をした時の、とある場面のチャーミングさが忘れられない。
恋をした相手の彼女もかなり不器用で、中華料理店でのデートにこぎつけたものの、ふたりとも食べ方が驚くほど汚くて、しまいには餃子を転がして相手を楽しませようとし始めてしまう。
このシーンの「相手が愛おしい、楽しい、楽しませたい」というあふれるような思いが胸を締めつけるほどに迫ってきて、汚く食べている中華料理がとても輝いて見えるのです。
私が一番好きな映画です。
思いつくまま並べてみましたが、気になっていて、まだ観ていない映画もたくさん。
もっとたくさんの「おいしい映画」に出会うべく、秋の夜長の映画鑑賞をのんびり楽しむことといたします。