外にはさらさらと音も無く雨が降っていて、窓から入った白っぽい光が部屋中に広がっていた。
テーブルの上にはまっすぐな円筒形の形をしたグラスに入ったオレンジジュース、白いプレートにのったサラダ、リゾート地で出てきそうな金色に縁取りされて、くるりとした草のような装飾がついたカップに入ったコーヒー。いい朝食だ。
そこに新たに運ばれて来たパンを見て、
「焼きたてのパンの匂いって幸せなにおいに認定されてるんです。知ってました?」
と撮影をお願いしたモデルさんが言った。焼きたてのパンの匂いをかぐと、幸せな気持ちになって、優しくなれるそうだ。
「嗅覚は、大脳に直接送られるから、記憶もされやすくって。ほら、あの時のにおいって感覚よくあるじゃないですか。」と続ける。
「なんか、すごい雑学王ですね。」と僕は笑いながら言った。
ある特定の匂いがそれにまつわる記憶を呼び起こす事をプルースト現象(効果)というらしい。
パン屋さんはきっと幸せな毎日を送っているのだろうな。
Shingo Kurono