とうとうと流れる矢作の流れ
今住んでいる名古屋の借り住まいは、東山と呼ばれる市の東部にあります。ここから東へ車で30分ほど走り、猿投の山並みを越えるととうとうと流れる矢作の流れが出現します。矢作川は、愛知、長野、岐阜3県境付近の茶臼山に端を発し、左岸に段戸山系、右岸に猿投山塊の山間部を流れ、三河平野に下って三河湾へ注ぐ総延長約120kmの愛知県を代表する大河です。
上流部にある奥矢作第一、第二ダムをはじめ複数のダムを擁し、自動車産業など我が国有数の工業地帯、中京工業地帯の利水、電力供給に貢献している河川でもあります。
名古屋に赴任して以来、ワタクシはこの矢作の流れが好きで、何度も川沿いの道を走っています。地元神奈川の相模川や酒匂川は川幅に比して河川敷が広いのですが、矢作川は水量が豊かで川幅いっぱいに水面が広がっています。
両岸には草木が生い茂っていて、特に竹林が目立ちます。以前、弓道をやっている人から聞いた話ですが、三河地方は古くからの竹の産地で、その竹を材料とした弓が作られてきたため、弓道も盛んなんだそうです。
矢作川流域の動物たち
これら川面に迫り出した木々は水鳥たちのよりどころになっているようです。その代表格がオシドリです。神奈川でオシドリの姿を見るのは稀なのですが、矢作川ではその姿をよく見かけます。
水鳥の他にも清流を象徴する野鳥ヤマセミを見かけることも。カワセミより二回りほど大きいハトほどの大きさで、長いクチバシと頭部の冠羽が特徴的です。水中にダイブして川魚を捕食します。かつては平野の河川でも見られたヤマセミですが、護岸整備や流域の開発により生息域を狭めています。矢作川では川を横断する電線に止まっている姿を見かけることが多いです。
矢作川の流域には、先述の段戸山系や猿投山塊などの低山が連なっています。古くから奥地まで人の手が入った山域ですが、今は逆に自然に戻りつつあるようです。その証拠に、田畑は動物の侵入を防ぐ防護柵が張り巡らされるのが当たり前の風景になってしまいました。また、山を歩いているとカモシカやシカに出会うことも多いんです。
衰退する上流部の営み
繰り返しになりますが、矢作川上流域は低山が延々と連なる山深い地域ですが、尾張や三河から信濃方面に通じる最短ルートであることから山を縫うように街道が通じています。山間部の平地には、古くから山に糧を求める人たちの集落が形成されました。これら集落間を結ぶ杣道や街道筋には、今も道祖神や石仏が山を越えていく人たちを見守っています。
しかし、都市への人口流入傾向はこの地域でもご多分に漏れず、廃屋が目立ちます。かつて矢作川上流部に存在した小原、旭、稲武などの町村は、今や豊田市に吸収合併されています。当に「寄らば大樹の陰」ですね(笑)我が国の産業を牽引するトヨタ自動車の企業城下町豊田ですが、同じ市域にはこのような限界集落がいくつも存在しているんです。このギャップは違和感ありありで実に面白いです。
昨年の暮れに奥矢作湖から駒山という山を歩いた際、山頂部で立派な山門が残る廃寺を目の当たりにしました。この小馬寺という山岳寺院は、かつては馬の守護神として数百人の僧を抱える大寺院だったそうですが、物流が馬から鉄道、自動車に代わり、山麓の集落がダムの湖底に沈み、あるいは都市に人が流出すると檀家を失って、昭和30年代には廃寺となってしまったそうです。地元では見ることのない風景に只々驚くばかりでした。
帰宅してネットで調べたところ、最近まで本堂も残っていたそうですが、倒壊して危険なため取り壊されてしまったようです。近々山門も同じ運命を辿ることでしょう。栄枯盛衰は世の常とはいえ、とても残念なことです。
奥矢作には雨がよく似合う
年が明けて、奥矢作の小渡温泉を訪れました。小渡は奥矢作ダムから西に流れ下った矢作川が南に方向を変える場所で、北上するとすぐに岐阜県に入り明智や土岐に至る交通の要衝でもあります。奥矢作には他に笹戸、榊野、夏焼など小粒な温泉が点在していて、奥矢作温泉郷などと呼ばれることもあります。これらひなびた温泉を訪れるのも楽しみのひとつになりました。
街道筋にある小さな旅館はしもとに投宿。季節の料理に舌鼓を打ちました♬お酒も進みます(笑)
ヒラメのお造り、サワラの松の実焼、前菜、あん肝の白菜巻
デザート、アマゴの南蛮漬け&タコのやわらか煮、えび真薯、自然薯飯
小渡温泉は珍しい放射能泉=ラドン温泉です。源泉の温度は10度ほどと低いため沸かし湯なのですが、この手の沸かし湯は大抵お宿が張り切って沸かすため熱めです。ぬる湯を好むワタクシはひーひー言いながら湯に浸かります(笑)
小渡温泉を訪れた日は生憎の冷たい雨でしたが、何をするわけでもなく、湯に浸かりながらしとしとと降り続く冬の雨。それを集めて流れる矢作の流れを眺めるのもたまには良いものです。あ~あ、名古屋に戻りたくなくなっちゃった(笑)
さて、次はどこのお湯に浸かろうかしら…
今回もご笑覧いただきまして、ありがとうございました。