hatao

ケルト&北欧の笛奏者、音楽教師、音楽教材著者、楽器店経営者。 ハープと笛のhttp://hataonami.com、ケルトの笛屋さんhttp://celtnofue.com 演奏、教育、普及で音楽を広める。18年京都烏丸錦に、19年東京都ひばりヶ丘に日本初ケルト音楽専門の楽器店を開店。En한中 3か国語学習中。

スモールビジネスは安売りしてはいけません

こんにちは!

ケルトの笛奏者で、ケルト音楽専門の楽器店「ケルトの笛屋さん」を経営しているhataoです。この連載では、スモールビジネスを営む私が起業やビジネスについてアイデアと経験をみなさんとシェアしています。

私が楽器店を営む中で、絶対に手を出さないことの一つが、安売りです。

▼参考過去記事
「店頭販売での値引き交渉はアリ、ナシ? 値引きのデメリットとは」
https://brew-by.com/17648

商品の品質に問題があれば値下げ販売することはありますが、単純に古いモデルだからとか売れないからという理由で値下げをすることはありません。弊社で取り扱っている楽器は希少なものが多く、ロングテールの法則の通り、売れにくいものでも3年と待たず売れた経験があるため、焦って安売りしてもメリットがないとわかっているからです。

安売りは誰でも思いつく

競争は値下げの最も大きな要因です。自社と競合他社とが同じ商品を取り扱っているとき、競争を有利に進めようとして値下げすることは、誰でも思いつくでしょう。しかし、これは商売人としてはセンスがないと言わざるを得ません。

弊社の社内会議でイベント企画を募る際に、私が最も嫌う提案は単純にただお客様が来店するだけで商品をプレゼントしたり、値引きクーポンを配るアイデアです。こういったことは、商売の素人でも1秒もかからずに思いつくことができます。そんな時、私は「そのアイデアは本当に考え尽くして出したのですか?」と質問します。厳しい問いかけですが、真剣に考えたらこんな安直な考えには至らないと思うからです。

安売りをしてはいけない理由

値下げは自社、スタッフ、顧客、メーカー、ひいては業界全体に好ましくない影響を与える破壊的な行為です。

まず自社への影響を述べます。
値下げは純利益を大きく損ねます。例えば税抜売価100円、原価60円、粗利40円の商品があったとしましょう。この商品を20円値下げすると、粗利は20円になります。目標利益が1000円の場合、もともとは利益40円×25個を売ればよかったものが、20円値下げすると20円×50個売らなくてはいけなくなります。販売に2倍の苦労がかかるというわけです。
しかも、苦労ほどのメリットがありません。自社は利益を40円→20円で50%も減らしているのに、お客様目線では100円→80円で2割引の効果しかないのです。一つの商品ならまだしも、商売全体をこういう姿勢でやっていたのでは苦労ばかり増えて手元に残るお金は見合わないものになります。

また従業員は薄利多売を強いられるわけですから、値引き前と同じ利益を確保するためには販売の回数が増やさなくてはいけません。すると作業量が増えて細かなことに手が回らなくなり、ミスが増えて販売が雑になり、顧客サービスの低下を招きます。その上、安売りを求める顧客ばかりを集めてしまうため、かえってクレームが増えたり過度な要求をされることが増えたりします。

顧客側としては、値段が安い分サービスの品質が低下し、適切なサポートや保証が受けられなくなります。ネット激安店で買った輸入家電に十分な保証がないことと同じ理由です。

メーカーとしては、競合メーカーよりも自社製品が安売りされている印象がついてしまい、ブランド価値と信用を毀損します。

こうして業界全体が値下げ競争に巻き込まれ、この商品を取り扱っても儲からないばかりか疲弊するだけだということになります。やがてまともな業者は撤退し、質の悪い業者が参入してサービスの品質と評判を落とします。こうして業界全体が衰退し、あるいは消滅してしまい、国内ではその商品が手に入らなくなってしまうことすらありえるのです。ほら、誰も得していませんよね。

値下げ競争を仕掛けられたら?

値下げが悪手だということはよく理解していただけたでしょう。「でも、競合他社が値下げを仕掛けてきたら綺麗事を言ってもいられないのでは」と言いたそうですね?
これは、「平和憲法と戦争の問題」に似ています。我が国が値下げをしないという平和憲法を持っていても、他国から値下げ戦争を仕掛けられたらどうしよう、というわけです。私の結論は護憲派の意見と同じです。それ以前に、値下げ競争を仕掛けられないようにすべきなのです。具体的には同じ商品を取り扱わない、同じエリアで商売をしない、同じ客層を相手に商売しない、ということです。「地域1番店」になれば、のびのびとやっていけます。

では万が一、同じエリア、同じ客層、同じ商品を扱っていて他社が値下げ競争を仕掛けてきたら?
それには「絶対に」乗ってはいけません。値下げ競争はビジネスとしては最悪です。なぜなら、相手に勝つためには利益が1,000円でも出れば良い、果ては、その商品で利益がマイナスであっても他の商品で売り上げが立てられれば良い、といくらでも値下げができてしまうからです。スーパーで「お一人様限り卵1パック10円キャンペーン」をやっているようなものです。卵の仕入れ原価が10円以下なわけがないでしょう?

商売人なら、なるべく高く売れ

この見出しを見て、「なんと強欲な!」と反感を抱くかもしれません。日本はこの30年間、あまりに安さを重視しすぎたからです。安いことは良きこと、値上げは悪だ、という価値観がすっかり染み付いたのです。その結果、労働者の給料が下がり、消費購買力が下がり、国力が衰退しました。安売り信仰によって我が国は、着実に値上げと賃上げを繰り返してきた諸外国との差が大きく開けられたのです。

私は、どんどん高く売るべきだと考えます。しかし、無意味な値下げにセンスが無いのと同様に、無意味な値上げもまたセンスがありません。単純に高いだけでは、お客様には買ってもらえないからです。付加価値を高めて、高い値段でも納得して満足して買ってもらうことが大事なのです。

例えば同じ商品で競合他社が値下げを仕掛けてきたなら、あえて値上げする。その分さまざまなサービスやサポートといった付加価値をつけてお客様に相応の値段だと感じてもらいます。お客様は安いから買うのではありません。価値がある、得だと思ったら買うのです。

インフレの時代、値上げを恐れてはいけない

先日、日経平均株価が35年前のバブル時の最高値を更新して史上最高値となりました。しかしバブル時代とは異なり、多くの人々は豊かさを実感できていません。それは、円安とインフレによって円の価値が毀損しているからです。昔の給料15万円・コーラ100円だった時代とインフレで給料30万円・コーラ200円の時代では、同じ日経平均株価40,000円でも意味はまったく違うということです。これから円安は固定的になり、ますますインフレが加速するでしょう。

自営業者や経営者は、世間の物価の動きをよく観察し、遅れないように値上げを実行すべきです。でないと、一時期には競争に有利になっても、そのうちコストが増大してジリ貧になっていくでしょう。値下げするのをやめて、高付加価値による値上げは良いことなのだと価値観を一新すべき時なのです。