hatao

ケルト&北欧の笛奏者、音楽教師、音楽教材著者、楽器店経営者。 ハープと笛のhttp://hataonami.com、ケルトの笛屋さんhttp://celtnofue.com 演奏、教育、普及で音楽を広める。18年京都烏丸錦に、19年東京都ひばりヶ丘に日本初ケルト音楽専門の楽器店を開店。En한中 3か国語学習中。

20代と40代、どちらが生きやすい?

こんにちは! ケルトの笛奏者であり、ケルト音楽専門の楽器店「ケルトの笛屋さん」を経営しているhataoです。この連載では、スモールビジネスを営む私が、起業やビジネスに関するアイデアや経験を皆さんとシェアします。

読者の皆さんは、どの世代に属しているでしょうか。今、過去の自分と比べて楽しくて生きやすいと感じていますか、それともそうではないでしょうか? 40代の私は、今が人生で最も楽しい時期だと感じています。20代の頃のように徹夜をしたり、自転車で一日100km以上移動したりする無茶はできませんが、元気で健康で、不自由もなく悩みも少ない今が一番快適です。

一方で、私が演奏している音楽ジャンルでは若手がどんどん台頭してきており、若い人たちの前向きなエネルギーを見ると、かつて自分にもあったものがすでにないことを痛感します。若者の肌や髪が輝き、未来に多くの時間や可能性がある様子を見ると、若いというだけで大きな価値があると感じます。

今回は「20代と40代、生きやすいのはどちらか」をテーマに、歳を重ねることで失うものと得られるものについて考えてみます。

40代が生きやすいかどうかは、性別、結婚しているか独身か、家族の状況、社会的な立場など、さまざまな条件で人それぞれ異なるため、一概に述べることはできません。そこで、今回は私自身の人生を振り返りながら、率直に感じたことを書きたいと思います。

苦しかった20代

私の20代はとても苦しかったことを憶えています。その最も大きな原因は、自分が嫌いで自信がなかったことです。高校生の頃から、容姿、知力と運動神経、性格や考え方、才能のなさすべてに深い劣等感を覚えていました。大学生になり楽器と出会ってからは以前よりは社交的になり、また人前で演奏をして評価されることで自信がついてきましたが、依然として生きづらさを抱えていました。

20代前半の5年間は、さまざまな失敗と挫折を経験しました。失恋、仕事上の失敗、人間関係の失敗、才能の壁などです。その多くは自分の未熟さと実力不足が招いた失敗でした。特に人間関係では頻繁にトラブルを起こしており、呆れて絶縁されたり喧嘩別れしたりといったことが絶えず、大きなストレスを抱えていました。20代は、自分では大人だと思っている一方で精神的には未熟なため、周囲との摩擦を起こしやすい時期です。

また、競争によるストレスや将来に対する漠然とした不安も抱えていました。20代はさまざまなことにチャレンジすることが求められます。就職や資格試験といったチャレンジ、また職業上で覚えることが多く、それでいて自分が本当はどんな職業に向いているのか確信が持てません。私は20代前半ではアルバイトや職を転々としており、いつになったら落ち着けるのだろうと不安でした。

20代は変化が大きく、常に新しい刺激にさらされます。進学や就職、結婚、引っ越しといったライフイベントが発生します。私はその度に、自分を奮い立たせる必要がありました。それもまた大きなストレスとなりました。

心の成長が感じられる40代

40代になるとライフスタイルはさまざまです。独身、結婚して家族を持つ人、離婚してシングルに戻った人、子供の学校や進学の問題、親の介護など人によってまったく状況が異なってきます。そういった個別の事情とは別に、私自身は心理的な成長によって人生が生きやすくなったと感じています。 

・嫉妬しなくなった

若い頃は誰もが自分のポジションを築こうと必死です。同期入社との競争や昇進、資格取得など常に競争にさらされています。一方で40代になるとそれぞれの専門や進んできた道が異なり、実力や自信もついてきます。自分と他人とを区別して考えられるようになり、嫉妬することが減ったように思います。

・くよくよしなくなった

若い頃は過去の失敗を思い出してくよくよしたり、あの時こうしていればと後悔したりしたものでした。私はよく、大学受験前にタイムスリップできれば良いのにとよく妄想していました。40代になった今、20代に帰りたいなどとは思いません。この歳になると、色々な挫折や失敗も自分の成長の糧であり、むしろ苦難を乗り越えられたことを誇りに思うくらいです。自己正当化バイアスもあるのでしょうが、「40代は人生の答え合わせ」などとよく言われる言葉には納得しています。

・他人に寛容になった

一般的に言われることと反対に、若い頃のほうが視野が狭く、柔軟性やゆとりがなく、他人に腹を立てることが多かったように感じています。独善的で自分の考えを他人に押し付け、反対意見は議論して言い負かそうという気持ちが強かったのです。今はさまざまな考え方や立場があり、自分と相容れない意見があって当然だと考えているので、腹を立てたり議論しようという気にはなりません。

・焦らなくなった

若い頃はいつも何かに追い立てられているようなプレッシャーを感じていました。目標や理想には自分はまだまだ足りず、努力して達成しなくてはいけないと感じていました。もっともっと自分を追い詰めて課題を与えようとしていました。
それは、自分の才能や可能性が自分に見えていないことの裏返しです。自分の適正や才能の限界を理解している今は、経験的に向いていないことはせず、目標を達成するために何をどのくらいすべきかも理解しているので、焦ることは少なくなりました。

・傷つきにくくなった

若い頃は人の何気ない言葉に心が傷つきやすく、長く引きずっていました。それは自信のなさの現れだったと思います。今は多少のことでは簡単には傷つきにくくなりました。何を言われても自分の価値は自分一番わかっている、という軸ができたことが理由のひとつです。もうひとつの理由は、感性が衰えて以前より鈍感になったことかもしれません。

加齢は悪いことばかりではない 

以前私は、年を取ることにポジティブなことなどあるのだろうか? と自問したことがあります。失うことばかりではないか、と思っていたのです。

「人生の幸福度グラフ」はU字型をたどるそうです。幼少期がもっとも幸福度が高くそこから中年期にかけて幸福度は下がり谷を形成し、加齢するに従って再び幸福度を取り戻すのです。老齢になって幸福感が増すのは、多くの経験を得て何も心配することはない、と泰然とした境地に至るからなのでしょうか。

このグラフによると、私は最も不幸な時代を生きていることになります。確かに、中年期の心理状態は「ミッドライフ・クライシス」とよばれ、家庭人や経済人としての大きな責任や、ホルモンバランスや体型の変化など、さまざまな悩みや困難を抱えやすい時代でもあります。

では、歳を取るのは悪いことばかりなのでしょうか。私はそうは思いません。むしろ、20代の頃よりも自由で、柔軟で、心のゆとりを感じることができます。もし20代の頃の私に連絡を取ることができたら、伝えたいのです。「心配しないでも大丈夫。将来はもっと楽しくなるよ」と。