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ケルト&北欧の笛奏者、音楽教師、音楽教材著者、楽器店経営者。 ハープと笛のhttp://hataonami.com、ケルトの笛屋さんhttp://celtnofue.com 演奏、教育、普及で音楽を広める。18年京都烏丸錦に、19年東京都ひばりヶ丘に日本初ケルト音楽専門の楽器店を開店。En한中 3か国語学習中。

コロナ禍における楽器店経営への影響と対策

前回はコロナ災害によって、音楽家として受けた影響について書きました。

僕は音楽家として活動するかたわら、楽器の輸入販売業を営み、3店舗を経営しています。今回は、そちらで受けた経営への影響と対応、今後の展望についてお話をします。

3月から来店者数が激減

2つの店舗は面積がとても小さく、ニッチなジャンルの楽器を取り扱っているため、来店数は多い日でも10人未満です。ダイヤモンド・プリンセス号の集団感染が報じられていた2月は客足にそれほど影響を感じなかったのですが、3月に入り各地で感染者が出るようになると、実店舗への来店者数が目に見えて減りました。

当店の主な商品は管楽器です。通販店にはない店舗の最大の強みはお客様に楽器の試奏をしていただけることなのですが、管楽器演奏や試奏は感染リスクがあるため、その強みが裏目に出るだろうと予測をしていました。

感染リスクへの対策は当然ですが、営業形態の変更も視野に入れて、僕は社内のSlackで3月1日に以下の提案をしました。いま考えると、かなり早い段階で対策を打っていたようです。

・京都店については今後、来客数ゼロの状態が2週間続いた場合、一時休業し予約制にします。

・各店長は、だるさ、発熱、カラ咳の症状があるとき、その日から休業し、休業の告知はSNSで行います。

・休業中はYouTubeライブで僕が商品紹介しながら通販で即時販売をするスタイルに変えます。

・接客時はマスク着用、試奏前後にはマウスピースを消毒し、お客様にも消毒液での手指の消毒を義務付けてください。

以下が当店の感染症対策のために現在も採っている対策です。

・店員のマスク着用

・お客様ご来店時の手指消毒の推奨

・部屋に5名以上の入室を制限する

・管楽器試奏後の消毒、ドアノブなど触れる箇所の消毒

この対策をSNSで積極的に発信をしてきました。それでも、4月に入ると店舗への来店者数がゼロの日もしばしばありました。

4月7日に緊急事態宣言が出されてからは、当店でも営業時間を短縮しました。感染予防はもちろんなのですが、時給制のため、お客様がいないのに店を開けていると人件費がかさみ赤字になってしまうからです。

もとから両店ともに営業時間が短く週末だけの限定営業でしたが、東京店は営業時間を撤廃し予約制に切り替えて、予約をいただければ随時来店できるようにしました。そのほうがお客様が集中するリスクを避けられるからです。京都店は週に3日の営業から週に1日に3時間だけの営業にしました。その際に取った店長とのコミュニケーションについては次の項目でお話しします。

店長とのリスク・コミュニケーション

2月末に感染症のリスクと店舗への影響について、自分の考えを店長に伝えました。中国武漢の深刻な状況を知っていたので、日本でも都市封鎖はありうるだろうと予測していました。そうなれば、店舗は営業ができません。営業ができなければ給与体制上、店長の収入が減ることになるため、営業短縮や休業のリスクをどう伝えようか考えました。

京都店の店長は2月の時点ではそれほど深刻な事態だとは思わなかったようでした。しかし僕の話を聞くと、とたんに電車に乗って通勤するのを怖がり、自分から休業したいと言いました。通勤が不安な気持ちは僕もわかります。しかし、店舗からの出荷が多いため完全に休業もできず、説得して週1日の短縮営業をすることになりました。店長の収入は時給と歩合給であるため営業時間が減ると収入が減ってしまうため、通勤手当として移動中にも時給を出すことにしました。

東京店の店長は事情が異なり、店舗が入っているマンションに住んでいるため通勤はありません。給与体系は、住居費を僕が全額負担することに加えて、店長として月給を支払っていたのですが、営業時間を撤廃したため月給を停止し、お客様対応をした時間だけの時給に一時的に切り替えることにしました。こちらの店長はマーケティング担当で別途給与を支払っているので、完全に収入が絶たれる不安はありません。また、店舗経営が赤字になっても、コロナ災害が終息するまではマンションの住居を保証することを約束しました。

以上のことから、経営者とスタッフの相互の利害が矛盾する場合には、コミュニケーションが鍵になると感じました。

営業売り上げが減るかと思いきや…

3月中は自粛ムードのためか通販店を含む全体的な売り上げに弱りが見られましたが、4月に入ると通販店の注文件数が目に見えて増え始めました。1件1件の購入金額は大きくないものの、初心者向けの楽器と教本のセットが多く売れており、お客様からの通信欄にも外出自粛で家にいる時間を楽しく過ごすために、思い切って楽器を始めます、というメッセージが多く寄せられました。自宅ですごす時間が増えたことで、新規のお客様を獲得したようです。

その結果、4月度の通販店が今年の最高営業額を出したことがわかりました。それだけでなく、これまでの4月の営業額の中でも最高額となりました。実店舗の売り上げが大きく減っていただけに、予想もしていなかった嬉しい報せとなりました。

消費者の購買行動がネットにシフトしたこと、そして自宅で過ごす時間が増えたことが、楽器店経営にとっては追い風となったようです。

経営のリスク・マネジメントが功を奏した

今回のコロナ災害を予見していたわけでは決してありませんが、臆病な僕は経営を始めた当初から、リスクを最小限にすることを考えて、一歩一歩足場を固めるように着実に経営をしてきました。無借金で起業、仕入額は余裕資金で行い、家賃など固定費を抑え、店長への給与は時給と歩合給を基本とする……などです。

そのため、休業で家賃や人件費が経営を圧迫することはなく、堅実な営業を続けることができています。仮に今回の営業短縮が1年続いたとしても、店舗もスタッフも安泰であるとの見通しです。このことから、リスクを減らして経営することは、経営を安定化させるだけでなく、このような非常時にビジネスを生存させるためにも有効だと考えています。

今後の対応と次の一手

日本政府は5月8日、緊急事態を5月末まで延長することを決定しました。これがさらに延長される可能性や、秋以降に流行の第二波があると言われていることもあり、コロナ災害が終息するまでには長くかかるだろうと僕は見てます。それは店舗経営には大きな影響を及ぼします。

営業自粛以外に現在の自分のビジネスへのリスクは、国際郵便と為替です。多くの国で国際郵便が受け付け停止または混乱をきたしており、輸入に影響が及んでいます。都市封鎖をしている国では、そもそも工場が稼働していません。そして、株の暴落が為替にどのような影響を与えるかは予測ができません。この2点については自分のコントロールの及ばない領域ですが、個別に対策を行っています。

コロナ後の社会は、これまでとはまったく違う生活様式や文化になっているという指摘があります。

具体的には、消費者行動は今後EC(ネット)への流れが加速するでしょう。このような状況では飲食店だけでなく店舗を持つことはリスクとなります。僕はこれまで店舗スペースや店舗数を拡大する方向を意識して経営をしてきましたが、その方向性は見直さなくてはいけません。コロナ災害によって店舗の存在価値が下がるということはないものの、よりECを意識した方針への転換、また輸入リスクに備えて、オンラインでの買い物相談や教材ビデオの配信、音楽の配信を強化してゆきたいと考えています。

次回は、コロナ災害が僕個人へ与えた影響についてお話しをします。