hatao

ケルト&北欧の笛奏者、音楽教師、音楽教材著者、楽器店経営者。 ハープと笛のhttp://hataonami.com、ケルトの笛屋さんhttp://celtnofue.com 演奏、教育、普及で音楽を広める。18年京都烏丸錦に、19年東京都ひばりヶ丘に日本初ケルト音楽専門の楽器店を開店。En한中 3か国語学習中。

スモールビジネス経営者のキャリアとリタイアメント

こんにちは! ケルトの笛奏者で、ケルト音楽専門楽器店「ケルトの笛屋さん」を経営しているhataoです。この連載では、スモールビジネスを営む私が起業やビジネスについてアイデアと経験をみなさんとシェアしています。

前回の連載では、いわゆる「中年の危機」問題について、キャリアの観点からお話をしました。今回は私のようなスモールビジネスを営む経営者のリタイアメント(退職)について考えてみます。

経営者は何歳まで働く?

先日はあまりに仕事が忙しくストレスを感じていた私は、このようなツイートをしました。

私の状況をお伝えしますと、会社経営者、独身44際、扶養する家族はなく、持ち家あり、借金や住宅ローンはありません。親は離れたところで自立して暮らしていて、幸い介護や資金面で私がケアをする必要はなさそうです。今後、住宅の購入や新規出店などの大きな出費も予定していません。比較的質素な暮らしをしており、切り詰めて暮らせば事業資金や税金・保険を除いて月の生活費は10万円あれば生活できそうです。

私は自分の仕事を愛しており、これまで辞めたいと思ったことはありませんが、最近は楽器店の仕事があまりに多忙で日々パソコンの前から離れられず、人生を存分に楽しんでいないと感じています。「ワークライフバランス」と言いますが、もう少し仕事を減らしたいと考えていました。

人間、いつ死んでしまうか分かりませんから、やりたいことはなるべく若いうちにしておくべきです。そこで、リタイアメントについて考えるようになりました。

会社員であれば定年がありますが、私たち経営者や自営業者にはありません。定年65歳などと言いますが、一生働かなければいけない決まりはありませんから、私のように独り身であれば若くして引退することも検討しても良いでしょう。私は、家賃収入や投資やYouTubeなど月10万円を別の手段で得ることができれば今の楽器店経営やレッスンから退くことができるのでしょうか?

老後生活費を計算する

リタイアメントのタイミングのひとつの目安は十分な老後資金が貯まったときです。何年か前に「老後2,000万円問題」で世間が大騒ぎしたことは記憶に新しいでしょう。

2,000万円という金額が衝撃的だったので反射的に反応しまったのだと感じますが、どんな家族構成や貯金額、ローン残額を前提にした数字なのか、どれほどの人が理解していたのでしょうか。老後資金の必要金額は、資産状況や生活水準によって当然異なります。

私はフィナンシャル・プランナーではないので専門的なことは言えませんが、例えば毎月の支出が20万円であれば年間240万円、退職後30年間生きる前提であれば7,200万円が必要というおおまかな計算となります(ただし年金、インフレを考慮しない)。

そんな金額を貯めることは普通の人には難しいでしょうから、不労所得などで月に10万円の収入を得ることができるのであれば、貯金額はその半分になります。それでも3200万円……。40代世帯の貯蓄平均額は1248万円※だそうですので、アーリー・リタイアメントは叶わない夢なのでしょうか?

※金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査(令和3年度)」調べ

自営業、経営者向けの年金積立

退職後の生活基盤を支える手段として、自営業者や経営者が加入できる個人年金積立があります。

こちらも詳細は省きますが、代表的なものがIDECO小規模企業共済です。これらは税制面でメリットが大きいため、加入対象者は必ず加入してほしいと思います。私は毎月5万円(年間60万円)の小規模企業共済を積み立てており、節税効果を実感しているので積立額を7万円にしようかと考えています。小規模企業共済は受給できるまでには20年以上の年数を掛けなくてはいけませんが、退職後の暮らしを支える重要な収入源になるでしょう。国民年金に加えて、個人年金があればリタイア後の経済面はさらに安定します。

事業売却、事業継承

会社経営者でスタッフや店舗があるのであれば、どのように自分の事業を処分するのかということも考えなくてはいけません。それには廃業解散する、事業継承する、事業売却する、3つの選択肢があります。会社の資産状況や経営状況にもよりますが、資金面から見て成功と言えるのは事業売却(M&A)でしょう。事業売却できるのは、その事業が今後も雇用や産業を生み出し続ける価値があると判断されてのみ可能となるからです。

今40代でこれからも経営を続けていくのであれば、売却できる時点をひとつのタイミングの目安としても良いでしょう。なお弊社(ヨーロッパ伝統楽器店)はスタッフの生活を支えるのがやっとなので売却できるほどの企業価値はないのですが、仮に売却できる条件が整ったとしても、私の属人性が強すぎる会社なので私がリタイアすると継続が難しいと考えています。もし売却を前提にするのであれば会社から私の存在感を消していくか、それができないのであれば売却後にアドバイザーや役員といった立場で経営に関わる必要があるでしょう。

理想は、自分のペースで一生働き続けること

今回は思考実験としてアーリー・リタイアメントについて考えてみました。経営者は得意なことや大好きなことで起業している場合が多いでしょうから、「仕事が趣味」のような人は退職してしまうとやることがなくなり、生き甲斐を失って一気に老け込みそうな気がしています。また、減るだけの貯金額を気にしながらあと何年生きられるのか……と考えるのは精神にも悪そうです。

私自身も楽器そのものや、演奏すること、教えることが楽しくて今の仕事を始めましたから、仮に宝くじに当選して大金が手に入っても、自分のペースで仕事を続けていくと思われます。音楽から退くことなどは想像ができません。年齢に応じて体力や集中力が下がるのは仕方がないことなので、仕事量をコントロールして楽しく一生働き続けていくことが、老後資金のためにも、心身の健康のためにも良いのではないかという結論に至りました。

それではまた次回!