山笑海笑

神奈川県西部在住。丹沢や大磯丘陵を歩いて、風景を楽しみ動植物を愛でるのが好きです。週末は郊外に出て山野を歩き回っています。令和5年は転勤で名古屋周辺を楽しんでおりましたが、1年で帰ってまいりました( ̄О ̄)ゞ

白山登拝記【前編】

白山といふ山あり。加賀、飛騨国境に位置し、山裾を北は越中、南は美濃、越前に達する広大な山域に落とします。独立峰として見れば実に大きな山ですが、実際にはこれらの山域は両白山地と呼ばれる山塊とするのが正しいようです。ちなみに両白山とは、白山と50kmほど南に位置する能郷白山を指します。

日本海側気候の影響をもろに受け、冬季は我が国有数の豪雪地帯となります。「消えはつる 時しなければ 越路なる 白山の名は 雪にぞありける(凡河内躬恒)」と古今和歌集で詠まれたように、春から初夏にかけても残雪を残し、秋になると一足早く雪化粧するこの山は、当に「白山」という名にふさわしい山なのです。

また、我が国の標高2500m以上の高山帯としては最西端で、多くの植生の限界地にもなっています。ちなみに高山植物の名で白山を冠している種は、ハクサンシャクナゲなど20種。これは富士山(15種)、白馬(12種)、立山(9種)…丹沢(0)を超える本邦一で、昔から高山植物の観察地となっていた証しなのでしょう。

登山の歴史は古く、奈良時代に泰澄大師が開山し、日本三霊山として富士山、立山と共に人々の信仰を集めてきました。加賀、美濃、越前から禅定道と呼ばれる登拝道が開かれ、今も歩かれています。

白山との出会い

話は少し脱線しますが、かつて新幹線が東海道山陽に限られていた時代。上野駅には東北、上信越、北陸に向かう在来線特急(L特急)が並び、北の玄関口上野らしい鉄道風景がありました。かく申す、この山笑も年に一度の家族旅行(山旅)でこれら特急乗る機会をとても楽しみにしていたものです。

数ある上野発の特急の中で、北陸の金沢に向かう特急は2つあって、上越線経由の「はくたか」と信越線経由の「白山」でした。白い山がデザインされたヘッドマークを見て、子供の頃の私は未知の高嶺に思いを馳せたものです。

結局、特急「白山」には乗る機会もなく廃止されてしまいましたが、今回、由来となった白山に登る機会を得ました。神奈川県在住者にとって、白山は飛騨山脈(北アルプス)の向こうにある遠い存在ですが、名古屋に住む今は千載一遇のチャンスなのです。

金曜日の夜、登山口に向かう

7月最終の金曜日の夜。仕事疲れでたまに蛇行運転しながら東海北陸道から白川街道R156を北上。白川村の平瀬温泉から県道R451で岐阜県側登山口の大白川ダムへ。この道は県道といっても「険道」で、幅員減少、谷側切れ落ち、落石、越流…フルコースで出迎えてくれます(笑)まあ、単調な道を眠気と闘いながら走るよりは私好みではありますが。

登山口に到着すると、よくわかりませんが、既に多くの車が入っているようです。ただ、森の中に多くの気配を感じるのです。それが人間なのか、野生動物なのか、この世のものか、それとも…明らかになるのは翌朝明るくなってからのことでした。

標高1200m、名古屋の熱帯夜より気温が10度以上低いようで、空気がひんやりとしていました。樹間から見上げる夜空は満点の星空。天の川も見えていました。暫し、星空を眺めた後、車中泊しました。

けたたましいチェーンソーの音で目覚めました。すわっ!ジェイソンの登場か?白水湖とはクリスタルレイクだったのか?!いえいえ、登山道の草刈り隊が日の出とともに活動を開始したようです。車外を見れば、三々五々ハイカーが登山口に入っていきます。ワタクシも腹を満たしたら出発しましょう…ちょっと待った!出す方もね(笑)

登山口に踏み入れる前に白水湖を眺めました。白山の山懐に抱かれた水面はエメラルドブルーの神秘的な輝きを見せていました。火山である白山から流れ出る沢水には、硫黄分が含まれるため、そのような色を見せるそうです。この白水湖、今でこそ大白川ダムの堰き止め湖ですが、ダム建設の遥か昔にも火山活動によって堰き止められた自然湖が存在したそうです。土砂の堆積によって一度は消失した湖面がダムによって復活したのです。

平瀬道を歩いて越の白嶺へ

白山登山は一般的に公共交通機関でアクセスできる石川県側のルートが一般的ですが、マイカーであれば岐阜県側の平瀬登山口にアクセスが可能です。言うなれば裏口なのですが、さすがは天下の100名山。登山口の駐車場は夜明け間もなく満車状態でした。(但し、ダム堤に駐車スペースあり)

白山平瀬道が通じる大倉尾根。中段にある大倉山に由来する尾根の名ですが、慣れ親しんだ表丹沢の大倉尾根(通称「バカ尾根」)と同じ名前とは…おまけに登山口の標高が1200mで平瀬ルートの終点室堂が2400mで、標高差1200mもバカ尾根と同じ。これはリタイアできませんよ(笑)

登山口からしばらくはブナやミズナラ、イタヤカエデなどの大樹の森です。九十九折りの整備された登山道は標高を一気に稼いでくれますが…寝起きに朝食詰め込み、脱糞と短時間で一気にこなした身体には実に辛い。花は少な目で山アジサイの類がポツポツと咲く程度でした。

そのうち樹相は大樹の森から根元にクマザサが繁茂するダケカンバの林となりました。特にクマザサの勢いが良く、日の出とともに登山道に入っていった草刈り隊の方々は、随分と高い場所で作業を行っていました。快適な登山が楽しめるのもこれら作業員の方々のお蔭です。

標高を上げるにつれて花の種類が増えていきました。中でも中段まではヨツバヒヨドリが目立っていました。この花の蜜が大好物なのがアサギマダラという蝶です。アサギマダラの多くは、夏になると日本本土に渡ってきて、秋になると南西諸島や台湾などに渡っていくそうです。海を渡るたくましい蝶なのです。

大倉尾根の稜線に上がると木々は疎らになって、傾斜は緩くなってきました。展望も開けて、尾根の右手に白山の最高所御前峰と剣ヶ峰を見上げます。反対方向、左手には別山や美濃禅定道の山並みが。

左手やや後方に登山口の白水湖を見下ろします。

振り返ると、東に下る尾根裾の先に三方崩山が見えました。

平瀬道の通じる大倉尾根のちょうど中間点にある避難小屋。トイレはないようですが、いざという時に頼りになる存在です。小屋の周辺は一服するハイカーで賑わっていました。

さて、大倉尾根も中間点に到達しましたので、ブログもここいらで一服しましょう。今回もまとまりが悪く、申し訳ございません。最後にここまでで出会ったお花を紹介して、次回とさせていただきます。

平瀬道で出会ったお花たち

言葉足らずの愛を、愛を貴方へ…♬

(左上から右下へ)カニコウモリ、ヨツバヒヨドリ、チダケサシ、タマガワホトトギス

コキンレイカ、ヤマブキショウマ、ノアザミ、ヤマハハコ

ニガナ、トンボソウ、コウゾリナ、シモツケソウ

クルマユリ、アキノキリンソウ、シラビソの実(松ぼっくり)、サンカヨウの実

今回もご笑覧いただきまして、ありがとうございました。