山笑海笑

神奈川県西部在住。丹沢や大磯丘陵を歩いて、風景を楽しみ動植物を愛でるのが好きです。今は仕事で尾張の国におりますが、週末は郊外に出て山野を歩き回っています。

月とランプに照らされて【渡合温泉 後編】

中津川市加子母から木曽越古道を辿って加子母アルプスを乗り越し、付知川上流の渡合温泉まで歩く山旅。前回は早々と古道から脱線して、高時山に寄り道の後、稜線を乗り越す木曽越峠までたどり着いたところまでご紹介しました。

木曽越古道は相変わらず不明瞭で、峠から数歩のところでやぶの中に消えていました。ただし、高時山林道を歩けば渡合温泉には迷うことなく到達できるでしょう。時間も予定より随分と遅くなっていますから、林道を歩いていきます。

やっぱり古道が好き💖

木曽越からカシモ谷左岸に通じる林道を下っていきますが、沢の対岸に平行して通じているであろう古道は意識したいもの。しかし、林道は徐々に沢から離れていきます。このままえはいかん!と沢に下って対岸を探ってみると、やはりありました。微かな踏み跡が…👣

これ幸いと古道と思しき踏み跡を辿ってみますと、これがまた予想通りの整備不良。へつり、やぶ漕ぎ、崩落…これ、本当に古道なのかね?

…「そうだよ」としたり顔でほほ笑む観音様。

観音様に励まされ更に下っていくと、カシモ谷は西沢に出合いました。持参した地形図に寄れば、渡合温泉は西沢の左岸、すなわち対岸に見えてくるはずですが、これまた沢がかなり下に離れてしまい沢沿いの様子が不明瞭です。沢に目を凝らしても笹やぶがひどくて渡渉点を見出すことができません。

ようやく古い歩道を見出して進んでみれば…大崩落orz

再び笹やぶを大きく登り返して崩落地を迂回すると、ようやく対岸に渡合温泉の建物が見えてきました。但し、対岸に渡る橋が老朽化で「通行禁止」…夕闇迫る裏木曽の渓谷…無念だ…ここで腹を切ろう…なわけないじゃん!もう体力の限界!生きろ!とブツブツ唱えながらまかり通りました。

橋を渡ると温泉宿の裏手。ちょうど宿主が一服していました。満身創痍で裏山から転げ出た汚らしい男に「釣れました?」予約客だと告げると「へぇ~、車で来るかと思ってましたよ。コロナ以来峠を越えてきた人は初めてだよ。まだ食事まで時間があるからさ、お風呂に入っちゃいな」と温かく迎えてくれました。

渡合温泉ランプの宿

付知川上流西沢の畔に建つ渡合温泉。裏木曽の森に糧を求めた杣人たちの湯治場を起源とする宿は、母屋は大正時代に建てられた木造建築。渡合まで林道が延びた今は、秘湯愛好家や付知川での渓流釣り目当ての人が訪れるようです。女将さんに先導されて部屋に通されましたが、廊下はギャップもあり、歩くと足元からミシミシ、ガラス戸がガタガタと懐かしい音を立てていました。

通された部屋は小ぢんまりとして落ち着く和室です。ミシミシと縁側に出てみると、窓の外は鬱蒼とした森で下の方から沢音が聞こえていました。
エアコンなど空調はありませんが、暑さは全く感じません。ちなみに訪れたのはまだ残暑が厳しい頃。渡合温泉は中津川市内ですが、市街地の日中の温度は猛暑日を記録していました。ちなみに入り口は襖で鍵はかかりません。トイレ、洗面所は共同。電気は自家発電で供給される部屋の灯火のみで、22時に消灯となります。もちろんコンセントはありません。テレビもねえ、ラジオもねえ、車もそれほど走ってねえ…♬そんな歌詞が頭に浮かぶ宿です(笑)

峠を越えてきたので先ずは汗を流したい。お風呂は木の香りが良い高野槇の浴槽がふたつ。それぞれ源泉温度の低い鉱泉と谷川の冷泉を沸かしたお湯で満たされていました。嗚呼~~気持ちよかぁ~🎶山歩きでお風呂、それも温泉に入れることは何よりの贅沢です。窓辺にもランプがひとつ。シュウメイギクが咲いていました。

夕餉には山の幸がそろいました♪イワナのお造り、イワナの塩焼き、マスの南蛮漬け、コイの煮つけ、山菜の天ぷら、わらじ五平餅…これらを肴にビール…いやいや、せっかくなのでご当地名物のイワナの骨酒をいただきましょう🍶

夕餉の後は、広間に集まって宿主の指導の下ランプの扱い講座です。ランプの芯は基本的にちょうど良い具合に灯がともるよう調整してあるようですが、調整するならば炎がバットマンの頭の形になるようにするそうです。ランプが扱えるようになれば一安心。ランプの宿の自家発電は夜22時に停止するので、その後は各部屋でランプを灯して過ごすのです。

ランプの後は火打石による火起こしや緊急時に役立つロープワークなど、テレビもない。スマホも電波が届かない。何もない宿の長い夜を飽きさせないよう宿主はアトラクションを次々と繰り出してきます(笑)

そうこうしているうちに消灯時間がやってきました。部屋にランプを灯して消灯時間を待ちます。気が付けば…おや?月がきれいな夜じゃないですか。そっか、今宵は中秋の名月だった。縁側でずっと眺めていられる裏木曽の月夜でした🌕

渡合の朝ブラ

賑やかな野鳥のさえずりと微かに聞こえてくる沢の音で目覚める朝。なんと幸せなことでしょう🎶朝一で湯につかり、朝食までの時間、宿の周辺を散策しました。残暑が厳しい頃でしたが、山間の渡合は涼しく実に快適です。

当初、渡合から東に連なる阿寺山地を越えて、木曽御嶽山の麓、王滝まで歩く予定でしたが、この日は午後から天気が崩れる予報だったので、再び木曽越峠を越えて加子母の道の駅に戻るだけです。その分時間的なゆとりができたので、チェックアウトまで宿でのんびりできるわけです。

渡合にはかつて国営野営場がありましたが、現在は営業休止となっています。昨今のキャンプブームで設備の整った近郊型のキャンプ場が増える一方で、この手の飾らないキャンプ場が消えていくのは実に残念なことです。維持管理にもお金がかかるのでしょうけど、垂れ流しの水場とくみ取り式トイレがあればいいんです。

林道沿いの空き地にポツポツと車がとまっていましたが、おそらく渓流釣りの人でしょう。渓流釣りは朝が勝負。前夜に白川付知林道でアクセスして車中泊したのでしょう。そういえば、宿にも立派なイワナやアマゴの魚拓が飾られていました。ちなみに宿の膳に上がっていたイワナは、宿の近くで養殖されているものです🐟

朝食の膳はお腹に優しいメニューが並びました。その優しさに甘えて三杯飯。お櫃を空にしてしまいました(笑)この三杯飯が後々私を助けることになりますが、この時は満腹感に浸っているばかりでした🍚

食べ終わって身支度を整えてたら、さあ、出発…ではなく、射的大会の始まりです(笑)空気銃で森の中に吊るされた空き缶を狙います。最後の最後までお客をもてなすサービス精神にあふれたランプの宿でした。また来たい…いや、また来よう。

ちょっとだけよ💛苦戦した木曽越峠越え

復路は西沢林道から高時山林道を歩いて木曽越峠に向かい、加子母アルプスの稜線を乗り越したら木曽越古道から木曽谷林道に入れば、加子母集落までさほど時間はかからないでしょう。

ところが、木曽越峠の手前でインチキな古道の道標に騙され、道を見誤り、地形図を頼りに道なき尾根に分け入り、笹やぶ漕ぎしながら稜線を乗り越すことになりました。

稜線に出合うとクマちゃんに遭遇しました。今回も人の顔を見るなり、すっ飛んで逃げていきましたが(笑)前回、鉢盛山でもそうでしたが、ワタクシ、クマも嫌がるほど人相が悪いのかしら…orz

かなりタイムロスしながらも無事木曽越峠から古道を歩くことができました。古道は消滅寸前の状態でしたが(笑)

今回もご笑覧いただきまして、ありがとうございました。