こんにちは! ケルトの笛奏者で、ケルト音楽専門の楽器店「ケルトの笛屋さん」を経営しているhataoです。この連載では、スモールビジネスを営む私が起業やビジネスについてアイデアと経験をみなさんとシェアしています。
名物社長と無名な社長
名物経営者や看板社長といった、その会社を引っ張る「顔」として有名な社長がいる企業があります。例えば孫正義氏、三木谷浩史氏、柳井正氏、新浪剛史氏、前澤友作氏といえば何の会社の社長か、多くの人は答えることができるでしょう。
日本を代表する優れた経営者の発言や動向はメディアの注目度が高く、たびたびニュースに取り上げられるので、顔を覚えてもらうことができます。それでは、ソニー、パナソニック、シャープの現社長は誰でしょう。恥ずかしながら私は知りませんが、皆さんはいかがですか? 日本を代表するほどの企業ではなくても、堀江貴文氏のようにテレビにコメンテーターとして出演したり、「青汁王子」こと三崎優太氏のようにSNS上で有名なインフルエンサーだったりすると、広告費をかけなくても会社を認知してもらえるので、広報という点では貢献しているかもしれません。
しかし社長が有名でなくても堅実に業績を伸ばしている会社はありますし、社長が個性的だとか有名だというのは、会社の成長には大きくは関係がないのだと思われます。
「名物社長」の良し悪し
私が尊敬する経営者に、CoCo壱番屋の創業者、宗次徳二さんがいます。宗次さんは、夫婦で始めた小さな喫茶店でカレーを出すことからスタートし、今の世界的なチェーンを一代で築き上げました。現在の宗次さんは経営から完全に退き、名古屋市の音楽ホールの代表として文化活動に力を注いでいます(実は、私も演奏家として度々コンサートに出演させていただきました)。
宗次さんのように経営者が本の出版や講演会などを通じて社会と繋がり、会社の顔として活躍することは、経営者としての信用を高め、ひいては会社のブランディングや信頼性にプラスに働くと考えています。
一方で、SNSでの人種差別的な発言が目立つなど製品やサービスとは無関係な政治的な色合いの強い経営者は、不必要なイメージダウンを招き会社のブランディングにはマイナスに働くことでしょう。さらには、有名社長のスキャンダルは株価や会社の信用問題に直結することがあり、社長が有名であることのリスクは軽視できません。
現場主義か経営に徹するか
先ほどふれた宗次氏は徹底した現場主義で、会社が大きくなってからも直接店舗に指導に行っていたそうです。社員としては、大企業の経営者と直接会うことで意欲や忠誠心が上がるでしょう。一方で一切SNSをせず、メディアにも露出せず、経営だけに専念するという経営者も、またとても立派です。
さて、突然スケールが小さくなりますが、弊社では店舗の立ち上げ直後は経営者である私自身が店頭に立って接客する日を作っていました。私は音楽家としてアーティスト活動をしているので、ファンにとっては直接私に会えることが来店動機になるのではないかと考えていたからです。
しかし、そこには致命的な問題がありました。私は人見知りで、一人でいるほうが好きな人間です。小さな店内でお客様と一緒にいると、私はとても緊張して疲れ果ててしまい、最後には「頼むから誰も来店せずに今日を終えますように」と祈る気持ちで店頭に立っていました。私は接客には全く向いていなかったのです。
現在では3人の店長が頼れるようになり私より上手に接客をするので、私は一切店頭に立つことは無くなりました。それでも、LINEやメールでの問い合わせで私にしか分からない内容に限っては直接お客様と連絡を取り合うこともあります。
会社から属人性を切り離す
弊社「ケルトの笛屋さん」は、私の個人事業からスタートしました。当初は、私の名前での教材をたくさん開発したりYouTubeに顔出しでビデオを投稿したりと、積極的に顔を売ってきました。それは、ビジネスを通じて私を知った人がコンサートに来る、コンサートに来た人が私のビジネスを知る、という相互作用を期待していたからです。
起業から現在に至るまでその路線でのブランディングは続いており、狙い通りの効果があったと感じています。しかし、私はそろそろ会社から私への属人性を切り離そうと考え始めています。それは、近頃マイナス面のほうが大きく感じられるようになってきたからです。
私が演奏活動など他のことで多忙な時に限って、店の仕事のほうも立て込むものです。そのような時、私は確認を怠ってコミュニケーション・ミスをし、お客様を怒らせてしまうことが度々ありました。私がサービスの前線に立つことで、却って会社の足を引っ張っているのです。そして、会社スタッフとしての私のミスは、お客様の顔が見える規模の小さな会社では、音楽家としての私への信頼を損なう最悪の結果に直結します。そのような、音楽とは関係のないことで私の信頼に傷がつくことに私は耐えることができません。
経営者自身が輝くために
私は今45歳で、引退はまだまだ先だと考えていますが、引退ではなくても何らかの事情で私が経営に関われなくなることは、ありえないことではありません。そのような時に、「会社イコール経営者」のような企業の継承は非常に困難なものになります。
それは、リーダー(ボーカリスト)がいなくなったバンドのようなものだからです。桑田佳祐さんのいないサザン、草野マサムネさんのいないスピッツ、吉田美和さんのいないドリカムが想像できるでしょうか? (最近の歌謡曲事情がわからないので例えが古くてすみません)
私は創業時にバンドのような組織を目指しました。しかし、そろそろ会社から私という色を薄めていく時期だと感じています。理想は、私がいなくても回る組織、私が顔でなくても信頼される企業です。
私は起業してから10年間、この「ケルトの楽器店」という日本にないビジネスを成長させることを優先してきました。経営者には器というものがあります。私は現状に満足を感じています。これ以上スタッフを増やそうとか、店舗を増やそうという考えはありません。スタッフにもう少し多くお給料を渡せたら良いとは思っていますが、小さく幸せに生きることだって可能なのです。
いま、コロナ禍を乗り越え、円安もなんとか乗り越えて、スタッフは頼もしく成長し、事業は安定期に入ったと感じています。来年は、優先順位を入れ替えて、音楽活動と音楽家として成長することに没頭したいと願っています。もともと趣味性の高い弊社のような事業では、私が業界切っての音楽オタク路線を引っ張ることが、業界を盛り上げ、会社を盛り上げることにつながると信じているからです。
それでは、また次回!