史佳

新潟出身の三味線プレイヤー。9歳より津軽三味線の師匠であり母でもある高橋竹育より三味線を習い始め 2000年よりプロ活動をスタート。新潟を拠点に国内外で演奏活動を行ってきた。古典を大切なベースとしながらも、伝統芸能の枠を超えた新しいニッポンの音楽を目指し、現在、ニューヨークを拠点に移し三味線芸術の新しい境地を開拓している。 YouTube公式チャンネル :https://www.youtube.com/channel/UCDcEsCsEsKHs6Oyv-i83Nfw

三味線ディスパシート

7月9日、菊水酒造本社のある新発田市の生涯学習センターで開催したライブ
「pp/ff emotion 静寂と熱狂の共鳴」は、梅雨空を吹き飛ばす盛り上がりを見せた。

私が敬愛するジャズピアニストの秋田慎治さんをゲストに迎え、
三味線とピアノのコラボレーションステージである。

三味線とピアノのそれぞれの特色が光り、そのコントラストを存分に堪能してもらえる構成にした。

第一部では、お互いのソロ演奏を30分ずつ披露し、
第二部では民謡や現代曲、オリジナル曲でコラボレーションした。


今回の目玉は何といっても、第二部で演奏する現代曲『 Despacito(ディスパシート)』である。
この曲は、プエルトリコ出身の歌手ルイス・フォンシーがリリースし、
YouTubeで何億回も再生されている人気曲である。
ジャスティンビーバーがカバーしたことでさらに話題になった。
多くの人が一度は聴いたことがあるだろう。

 Despacito の日本語訳は”ゆっくりと”___。
その歌詞の内容はとても官能的である。
若い時には演奏できなかったであろうこうした色気のある曲に、まさに満を辞して挑んだ。

私は三味線を40年演奏してきたが、新しい曲を本番でやるときほど、緊張することはない。
何万回と弾いてきた古典の曲ならば、手が勝手に動く感覚で弾けるのだが、
演奏回数が浅い曲はそうはいかないのである。
本番直前まで、控室で何度も練習を繰り返す。

 そして、いよいよ第二部が始まった。

民謡の中でも最もピアニッシモな曲、『十三の砂山』からである。
三味線とピアノで、絶妙なピアニッシモ合戦となった。
そして、もうすぐ曲がおわり、はかない音で終わろうとしていたまさにその瞬間!

人生初のハプニング発生である。 

なんと、小さい虫が私の鼻の中に侵入したのだ。
鼻の中で虫が終始動いているが、何とか無心で最後まで弾ききった。
曲を終えた瞬間、思わず笑いがこみあげてきた。
お客様に緊急事態を宣言して、ポケットティッシュをもらった。 

目と鼻をきれいにふき取り、気を取り直したところで、いよいよ『ディスパシート』だ。

虫の事件があったことで、無駄な緊張もとれ、 スムーズに進んだ。
色気溢れる慎治さんのピアノとのコラボレーションが実現し、
とても官能的な演奏となった。
お客様も新しいナンバーの曲を楽しんでくれたようだった。

ライブラストでは、ヴァイオリンの庄司愛さんも参加し、生バンド形式で演奏した。
アンコールは、オリジナル曲「桃花鳥」。
菊水のアロハシャツをみんなで着て、演奏した。

西洋の楽器と東洋の楽器が見事なハーモニーを奏で、会場は総立ちとなった。

終演後のロビーで、多くのお客様から励ましの言葉をいただいた。
今回のライブが大きな収穫となり、この新しい編成で全国ツアーを回りたいという目標も見えた。
さらに現代曲を取り入れてレパートリーを増やすことを考えている。

50代に向けて、色気ある三味線の演奏にも挑戦していきたい。
どんなハプニングがあろうと、焦らず、ゆっくりと___。